引き続き、「阪急トラベルサポート」の事業場外労働についてのコラムです。
事業場外労働制は、「事業場外の労働に対して、会社が労働時間の把握をするのが困難である場合」に、原則として所定労働時間労働したものとみなす制度です。
第1回、第3回と、阪急トラベルサポートでの「事業場外労働のみなし労働時間制」を容認するか否かの残業代支払い命令に関する記事を取り上げました。
前回のコラムでは、「事業場外労働のみなし労働時間制を容認しながら、残業代の支払い命令が出されるという矛盾した判決となった」ことをお伝えしました。
それに対し、会社側は「海外ツアーにおいても使用者からの指揮命令と時間管理は徹底しており、実態として労働時間を把握できる。裁判官自身が労働時間を算定し、不払い残業代の支払いを命じておきながら、みなし労働の適用を認めるのはおかしい」として、控訴する方針を固めていましたが、また新たな動きが出ました。
以下、「毎日新聞2010年9月30日 東京朝刊」の記事より抜粋します。
添乗員派遣会社「阪急トラベルサポート」(大阪市)に登録する添乗員6人が、あらかじめ決めた時間を働いたことにする「みなし労働時間制」は不当として、残業代計2,428万円の支払いを求めていた訴訟の判決で、東京地裁は29日、みなし労働制の適用を妥当としたうえで、会社側に未払い残業代と付加金計2276万円の支払いを命じた。
裁判官は、
@長距離移動の際に休憩を挟めるA出国・帰国の飛行機内で睡眠を取れる、などの点を考慮。「労働時間の算定は困難」とする会社側の主張を認め、みなし労働制を適用できると判断した。
一方で、みなし労働時間を一律1日11時間とする会社側の主張を「労使間にみなし労働時間に関する合意がなく、会社の一方的な判断」と退け、ツアーの日報などを基に実際の労働時間を算定。ツアーに添乗した05年5月〜08年4月の未払い残業代計1138万円と同額の付加金の支払いを命じた。
【解説】
また前回と一転しました。
「労働時間の算定は困難」としてみなし労働時間制が適用され、会社側が主張する労働時間とされるのかが争点です。
今回の裁判のポイントは、労働者の裁量で休憩などを取れる状況にあったことから、会社側が労働時間を算定するのは困難である、という審判が下されました。
ただし、「一律11時間とする」という会社側の主張は認められず、残業代の支払いと付加金支払いが命ぜられました。
「労働時間を算定することが困難か否か」で、2転3転している状況です。この部分がまさに「事業場外労働のみなし労働時間制」を運用するにあたっての最大のポイントになります。多くの会社がこのみなし労働時間制を採用していますが、その会社の実態に応じて判断されることから、もし争いになった場合は、明確な基準がなく、裁判所の判断にゆだねるよりほかないことといえるでしょう。
今回の阪急トラベルサポートのみなし労働時間制を巡っては、東京地裁で今年5月と7月に、同じく残業代支払いを求めた二つの訴訟の判決があり「労働時間の把握は可能で、みなし労働制適用は認められない」とする判決と、「労働時間の算定は困難で、みなし労働時間を1日11時間とするのは妥当」とする判決に判断が割れています。
会社としてやるべきことは、やはり裁判になってしまうと「事業場外労働のみなし労働時間が認定されづらい傾向にある」という点を念頭におきながら本制度の導入を検討するということです。安易にみなし労働制を導入するのではなく、これまでの判例や通達を参考にしながら本当に労働時間の算定が困難な業務なのか今一度精査した上で、導入されることがリスク回避のポイントだといえます。
チーフ労務コンサルタント
中山 伸雄 |