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労働法務コラム

業務委託契約と労働者性

〜INAXメンテナンスと業務委託契約を結んで製品のメンテナンスを行っているカスタマーエンジニアを労働組合法上の労働者と判断される〜


今回のコラムは、最近注目されていた訴訟案件の事件のうち、INAXのカスタマーエンジニア(以下、CEという。)の労働者性が争われた事件の最高裁判決について取り上げたいと思います。
この事件は、INAXのCEとして働いていた個人事業主が労働組合に加入し、労働条件について団体交渉を求めたところから始まりました。労働委員会への救済申出について争われましたが、二転三転した結果、最高裁まで上がり、結果的に労働組合法上の労働者であると認定されました。
「業務委託契約」という位置づけが労働契約なのか否か、今後の形態に大きな影響を及ぼす可能性もあります。

事件の概要

INAXメンテナンス(INAX(現LIXIL))の子会社では、受注先の個々のメンテナンス作業について、自社の社員という位置づけではない、カスタマーエンジニア(以下、CEという。)と呼ばれる外注スタッフに依頼していた。CEはINAXメンテナンスと業務委託契約を結んでいる個人事業主であるが、実態としては、業務日および休日を指定していたことや業務委託契約の内容は使用者が一方的に定めたものであったことなど労働者と同様に近い請負形態であったことから、労働者性について争われた。

具体的には、CEが労組に加入して、労働条件について団体交渉を求めたということが、使用者から労働者に該当しないとして拒否されたことについての争いであるが、以下が、事件の詳細になります。


(当該事件について、厚生労働省HPより一部抜粋)
株式会社INAXメンテナンス(会社)が、会社と個人業務委託契約を締結して親会社である株式会社INAXの製品である住宅設備機器の修理等の業務に従事するCEが加入する全日本建設交運一般労働組合大阪府本部(本部)、全日本建設交運一般労働組合建設一般合同支部(支部)及び全日本建設交運一般労働組合建設一般合同支部INAXメンテナンス近畿分会(以下、本部、支部及び分会を併せて「組合」という。)からの団交申入れに対し、CEは個人事業主であり労組法上の労働者に当たらないとしてこれに応じなかったことが不当労働行為であるとして、本部及び支部が大阪府労委に救済を申し立てた事件である。

大阪府労委は、CEは会社との関係において労働組合法上の労働者と認めるのが相当であり、会社が組合との団交に応じなかったことは同法に該当する不当労働行為であるとして、会社に対し、(1)団交応諾、(2)文書手交を命じたところ、会社はこれを不服として、上記初審命令の取消し及び本部及び支部の救済申立ての棄却を求めて再審査を申し立てたものである。

会社側の再審査申し立てに対する初審命令

この申し立てについては、結果として、棄却された。(労働者性が認められた。)
(要旨)
CEの業務実態をみると、
(1) CEは、会社の事業遂行に恒常的かつ不可欠な労働力として会社組織に組み込まれている
(2) CEが製品の修理等の業務に従事する際の契約内容は会社が一方的に決定し、業務遂行の具体的方法についても会社が業務マニュアル等で指定する方法によって行うことが義務付けられている
(3) CEは、業務遂行の日時、場所、方法等につき会社の指揮監督下に置かれている
(4) CEが会社からの業務依頼を断ることは事実上困難であり、CEは会社との間で強い専属的拘束関係にある
(5) CEの受ける報酬はその計算、決定の構造にかんがみ、いわゆる労務対価性が肯認されることが認められる。

という実態がある。

これらの点を総合考慮すると、CEは、会社の基本的かつ具体的な指図によって仕事をし、そのために提供した役務につき対価が支払われているといえるのであり、CEは、会社との関係において、労組法上の労働者であると判断される。したがって、CEは、会社との関係で、労組法上の労働者であると判断されるのであるから、CEが加入する組合は、労組法上の労働組合であることは明らかであるとされた。

最高裁へ

以上のように、使用者側が労働委員会に救済命令を求めたところ、団交命令が出され、使用者がこの取消訴訟を提起したところ、原判決が救済命令を取り消したために、上告および上告受理申し立てがされた。(最高裁まで上がった。)
結果として最高裁は、CEについて労働組合法上の労働者であると認めて、原判決を破棄、使用者の請求を棄却していた第一審判決を支持したのが、今回の判決の趣旨である。
(最高裁判所第三小法廷平成23年04月12日判決 平成21(行ヒ)473 不当労働行為救済命令取消請求事件)

なお、使用者側の主張の趣旨と、最高裁の判断の基準は、以下の通りであった。


(使用者側)
(1) 個別の業務についてはCEが発注に対して承諾することが必要であり、拒絶することが可能であり諾否の自由があること
(2) 業務の遂行については裁量があること
(3) 報酬については裁量で増額請求ができること

(初審命令と重複するが、最高裁の判断の根拠)
(1) CEは、会社の事業遂行に恒常的かつ不可欠な労働力として会社組織に組み込まれている
(2) CEが製品の修理等の業務に従事する際の契約内容は会社が一方的に決定し、業務遂行の具体的方法についても会社が業務マニュアル等で指定する方法によって行うことが義務付けられている
(3) CEは、業務遂行の日時、場所、方法等につき会社の指揮監督下に置かれている
(4) CEが会社からの業務依頼を断ることは事実上困難であり、CEは会社との間で強い専属的拘束関係にある
(5) CEの受ける報酬はその計算、決定の構造にかんがみ、いわゆる労務対価性が肯認されることが認められる
(6) 名刺には使用者側の企業名が入っていた

結果として、労働組合法上の労働者であるという判決となりました。私見ですが、やはりマニュアルの存在は少なからず大きく影響したように思います。業務には裁量があったという会社側の主張は、会社が用意したマニュアルを前提とした業務遂行の裁量であったのでしょう。それもちょっとしたガイドライン的なものではなく、相当細かく各分野毎に網羅されたマニュアルだということが想像できます。こうした詳細なマニュアルに基づく業務遂行を前提とした業務委託契約は、直接雇用における使用者の指揮命令と同視されるリスクがあるということです。

今回の判決による影響

今回の判決で重要なことは、前記のような判決が最高裁でなされたことです。なぜ、最高裁での判決が大きな影響を与えるかというと、それば最高裁での判決が法律審であるためです。

事実審と法律審

事実審とは、検事または被告が提出した内容に基づき、その事件の事実関係を明らかにする事を目的とする法廷であるのに対し、法律審は、事実関係の認定を行わずその事件が法に照らし合わせてどういう裁量が妥当かを判断する場です。

一般的に第一審(地裁)および控訴審(高裁)が事実審になり、最高裁を法律審として、訴訟数を制限しています。民事訴訟の場合、最高裁が法律審となります。したがって、今回、法律審である最高裁で出た判決は、先例として非常に価値の高い裁判例として一つの法的な効力を持つということになります。

これまでも、「偽装請負」という言葉が生まれたように、仕事について、自社で労働者を直接雇用せず外注によって処理するが、実態としては指揮命令関係があるようなケースが多々見受けられます。企業としては外注で済ませた方がある意味雇用の調整弁として融通がききやすく、また社会保険料の負担が発生しないなどのメリットを享受できるからです。
しかしながら、実態として直接雇用している労働者と変わらない場合、双方の契約上は「業務委託」、「請負契約」といった名目であっても、認められないということになります。 業務委託の労働者性について、最高裁から一つの確固とした判断が出たことにより、今回の判決が今後の労務管理実務に影響を及ぼすことが予想されます。


現在請負として外部の一個人と契約をしている企業にとっては、より慎重に契約のあり方を考え、対応する必要が出てくると思います。今回の裁判例の判断となった根拠を基に、該当する企業に当たってはぜひ、現在の契約形態について改めて考える必要があるのではないでしょうか。


チーフ労務コンサルタント
中山 伸雄

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